【裁判例】研修費用の返還を求められたケース|「辞めるなら研修代を返せ」が無効とされた理由と、次の転職で防ぐ方法
「研修制度が充実」と聞いて入った会社。入社のときに、よく読まないまま「研修のあと○年以内に辞めたら費用を返します」という書類に名前を書いた。数年たって辞めると伝えたら、数十万円、数百万円の請求が届く。研修費用のしくじりは、入る前の書類1枚で防げることが多い失敗です。裁判所は、会社の仕事として行かせた研修の費用を、辞めた人に返させる約束は無効になりうると判断しています。一方で、本人の希望で行った留学などは、返還が認められた例もあります。判決をもとに、その分かれ目を整理し、次の転職で同じことを防ぐ方法と、内定を勝ち取るための準備をまとめました。
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よくある流れ:「研修が充実」のあとの請求
研修費用のしくじりは、次のような流れで起きることが多くあります(公的な判決や相談の例をもとにした、よくある流れです)。
20代の転職では、研修や資格の支援を「お得な制度」とだけ考えて、辞めるときの条件まで読まないことがよくあります。とくに、資格の取得を会社が支援する仕事や、海外の研修がある会社では、返還の決まりがついていることがあります。
研修制度の読み方は、「研修制度が充実」の記事でくわしく取り上げています。
責任者
裁判所の判断1:仕事として行かせた研修は、返さなくてよい
会社が仕事として行かせた研修や留学について、辞めたら費用を返すという約束を無効とした判決があります。
| 事件 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| 会社の留学の制度で海外の大学院へ。留学の決まりには「留学が終わって5年以内に自分の都合で辞めたら、費用を全額返す」とあった(東京地方裁判所 平成10年9月25日) | 応募は本人の意思でも、決まったあとは会社が仕事の命令として行かせ、会社の仕事に関係する学科を学ばせ、留学中の待遇も勤務に準じていた。返す決まりは、辞めさせないための罰の性質があり、法律に反して無効とした |
| 海外の行政機関に長期の研修に行かせ、「研修が終わって60か月以内に自分の都合で辞めたら返す」という貸付の約束をした。期間内に辞めた人に、約285万円を請求した(東京地方裁判所 令和3年12月2日) | 行き先と内容は雇う側が主導して決め、研修中の仕事も依頼に応じたもので、仕事としての性質が強かった。身につけた知識はほかでは使いにくい。費用は本来、雇う側が負うものだとして、約束を無効とし、請求を退けた |
2つの判決に共通するのは、形が「貸付」でも、中身が会社の仕事なら、返す約束は認められないという考え方です。
出典:東京地方裁判所 平成10年9月25日判決、東京地方裁判所 令和3年12月2日判決(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「労働基準関係判例検索」)。
裁判所の判断2:本人のための留学は、返還が認められた例も
反対に、返還が認められた判決もあります。会社の留学の制度を使って海外の大学院で学位をとり、帰国して2年あまりで辞めた人に、会社が学費分の返還を求めた事件です(東京地方裁判所 平成9年5月26日)。
裁判所は、留学への応募は本人の自由な意思で、仕事の命令ではなく、留学先も本人が選んでいたこと、学位は会社に勤め続けるかどうかにかかわらず本人に役立つことなどから、返還を認めました。
| 見られる点 | 返さなくてよい方向 | 返す約束が認められる方向 |
|---|---|---|
| 研修のきっかけ | 会社の命令・指示 | 本人が自分で応募した |
| 内容 | 会社の仕事に必要なこと | 本人の将来に広く役立つこと |
| 研修中の過ごし方 | 会社の仕事もしていた | 仕事から離れて学んでいた |
出典:東京地方裁判所 平成9年5月26日判決(労働新聞社「判例解説」による)。
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国の決まり:違約金と、給料からの天引き
研修費用の返還が問題になるのは、法律が辞めることを理由にお金を払わせて、働く人をしばることを禁じているからです。
| 決まり | 内容 |
|---|---|
| 違約金・賠償額の予定の禁止(労働基準法第16条) | 会社は、約束を守らなかったときの違約金や、損害賠償の額を前もって決める契約をしてはいけない |
| 強制労働の禁止(第5条) | 心や体の自由を不当にしばって、働くことを強いてはいけない |
| 給料の全額払い(第24条) | 給料は全額を払うのが原則。法律の定めや労使の協定がなければ、会社が勝手に差し引くことはできない |
| 辞める自由(民法第627条) | 期間の定めのない雇い方なら、辞めると伝えて2週間で契約が終わる |
誓約書の書き方の例と読み方
| 書き方の例 | 読み方 |
|---|---|
| 研修のあと3年以内に辞めたら、研修費用30万円を払う | 辞めたことへの違約金にあたるおそれがある |
| 本人が希望する資格の学費を会社が貸す。2年勤めたら返済を免除する | 研修の中身と、本人の自由な希望かで判断が分かれる |
| 返すお金は、最後の給料から差し引く | 本人と協定などがなければ、全額払いの原則に反するおそれがある |
出典:労働基準法第5条・第16条・第24条、民法第627条(e-Gov法令検索)。
いま同じ状況なら:そろえるものと相談先
辞めると伝えて研修費用を求められたら、その場でお金を払うと約束したり、新しい書類に署名したりしないことが大切です。
そろえておくもの
- 入社のときや研修の前に署名した誓約書・同意書の写し
- 研修の案内(行き先、内容、期間、参加が自由だったか)
- 研修中にしていた仕事の記録(報告書、メールなど)
- 会社から届いた請求の書面と、言われた内容のメモ
- 労働条件通知書と就業規則(研修や退職の決まり)
研修が会社の指示で、仕事に必要なものだったなら、返す必要がないと判断される可能性があります。反対に、本人が希望して受けた外部の資格講座などは、約束どおり返すことになる場合もあります。どちらに近いかを、書類をそろえて相談するのが近道です。
| 窓口 | 相談できること |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署の中) | 研修費用の請求や、退職のトラブルを無料で相談。会社との話し合いの手助け(あっせん)も |
| 労働基準監督署 | 違約金の定め、給料からの天引きなど、法律に反する疑いがあるとき |
| 法テラス | 弁護士への相談の窓口の案内 |
この記事は判決や決まりの考え方を紹介するもので、個別のケースの判断はできません。
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同じ失敗をくり返さないためには、入る前に研修と退職の決まりを書面で確かめることと、早めの退職を前向きに伝える準備の両方が大切です。
入る前に確かめること
| 確かめること | 安心できる答え | 注意したい答え |
|---|---|---|
| 研修の費用はだれが負うか | 仕事に必要な研修は会社が負担。書面にもそう書いてある | 「辞めたら返してもらう」とだけ言われる |
| 誓約書の有無 | 入社の前に見せてもらい、持ち帰って読める | 入社日にその場で署名を求められる |
| 資格の支援の条件 | 受けるかどうかを自分で選べ、条件が書面にある | 全員が受ける決まりで、返す決まりもある |
職務経歴書の書き方(ビフォー・アフター)
| 書き方 | |
|---|---|
| ビフォー | 研修を受けたが、会社と合わず2年で退職。研修費用のことでもめた。 |
| アフター | 法人向けの営業として2年間、既存のお客さま約40社を担当。入社後の研修で学んだ商品の知識を生かし、問い合わせへの返事を当日中に行う決まりを自分で続け、担当先からの追加の注文を前の年より増やしました。 |
職務経歴書には、研修でもめたことではなく、研修で身につけたことと、それを使ってやったことを書きます。退職の理由は、面接で聞かれたときに短く話せば十分です。
面接での答え方(退職の理由)
研修費用のトラブルを話す必要はありません。研修で得たものと、次にしたいことにつなげると、前向きに伝わります。
出す前・話す前のチェックリスト
- 内定先の研修と資格の支援に、返す決まりがあるかを確かめた
- 誓約書は、署名の前に持ち帰って読んだ
- 職務経歴書に、研修で身につけたことと成果を書いた
- 退職の理由を、前の会社を責めずに1分ほどで話せる
まとめ:研修費用は「中身」で判断される
会社の仕事として行かせた研修や留学について、辞めたら費用を返すという約束は、辞める自由をしばるものとして無効とされた判決があります。一方で、本人が自分の意思で選んだ留学などは、返還が認められた例もあります。分かれ目は、書類の名前ではなく研修の中身です。
この記事のポイント
- 辞めたら違約金を払う、という約束は法律で禁じられている
- 仕事として行かせた研修の費用は、本来は会社が負うものとされた例がある
- 本人が自由に選んだ留学などは、返還が認められた例もある
- 会社が給料から勝手に差し引くことは、原則としてできない
- 次の転職では、研修の誓約書を入社の前に読む
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辞めたら研修費用を返す、という約束は有効ですか?
研修の中身によります。会社の仕事として行かせた研修の費用を返させる約束は、法律に反して無効とされた判決があります。本人が自由に選んだ留学などは、返還が認められた例もあります。
誓約書に署名してしまいました。返さないといけませんか?
署名していても、約束の中身が法律に反していれば無効になることがあります。研修のきっかけや内容がわかる書類をそろえて、公的な窓口に相談しましょう。
最後の給料から研修費用を差し引かれました。
給料は全額を払うのが原則で、法律の定めや労使の協定がなければ、会社が勝手に差し引くことはできません。労働基準監督署に相談できます。
資格の取得費用も返さないといけませんか?
その資格が仕事に必要で、会社の指示で取ったものか、本人の希望で取ったものかで判断が分かれます。どちらに近いかを書類で確かめましょう。
「研修期間中の給料を返して」と言われました。
働いた時間の給料は、働いた対価です。研修が会社の指示で行われたものなら、働いた時間にあたることがあります。返す前に公的な窓口に相談しましょう。
請求を断ったら、辞められなくなりますか?
期間の定めのない雇い方なら、辞めると伝えて2週間で契約は終わります。お金の請求と、辞めることは別の問題として考えましょう。
どこに相談すればいいですか?
総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署の中)に無料で相談できます。会社との話し合いの手助け(あっせん)も受けられます。
研修費用のことは、次の面接で話したほうがいいですか?
話す必要はありません。退職の理由を聞かれたら、研修で身につけたことと、次にしたいことにつなげて短く話しましょう。
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