【裁判例】辞めた社員に損害賠償を求めた会社が負けたケース|「辞めるなら損害を払え」と言われたときの考え方と、次の転職で防ぐ方法
上司に「辞めます」と伝えた。返ってきたのは「いま辞められたら取引先に迷惑がかかる」「出た損害は払ってもらう」という言葉。怖くなって、退職を言い出せなくなる人もいます。会社が辞めた社員にお金を求める裁判はありますが、裁判所は、働く人が会社の損害を負うのは限られた範囲だけだとして、会社の請求を退けたり、大きく減らしたりしてきました。判決をもとに、その考え方を整理し、いま同じ状況の人がやってはいけないことと、次の転職で同じことを防ぐ方法、内定を勝ち取るための準備をまとめました。
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よくある流れ:「辞めるなら損害を払え」
退職と損害賠償のしくじりは、次のような流れで起きることが多くあります(公的な判決や相談の例をもとにした、よくある流れです)。
20代の転職では、「迷惑をかけるなら払うのが当たり前」と思いこみ、その場で約束してしまうことがよくあります。とくに、取引先に常駐する仕事や、少人数でお客さまを担当している仕事では、「代わりがいない」と強く言われがちです。
入る前に人の出入りを読む方法は、「離職率」の記事でくわしく取り上げています。
責任者
裁判所の判断1:仕事のミスの損害は、会社が負うのが基本
辞めた社員に会社が損害賠償を求めた事件で、裁判所は会社の請求を退けました。
| 争点 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| どんな事件か | システムの開発をする会社が、大口のお客さまからの注文が減ったのは、辞めた社員が仕事をきちんとしなかったからだとして、損害賠償を求めた(1審 京都地方裁判所、2審 大阪高等裁判所 平成24年7月27日) |
| 働く人はいつ責任を負うか | 契約の上の義務に反しても、それだけで当然に責任を負うわけではない。仕事のミスは会社の経営にもともとふくまれるもので、会社がそのリスクを負うべきとした |
| 責任の範囲 | 損害を公平に分ける考え方から、信義則の上で相当といえる範囲に限られる |
| この事件では | 会社が言う損害は、取引をする会社どうしでふつうに起こるトラブルで、社員個人に負わせるのは相当でない。わざと、またはひどい不注意があったとも認められず、1審・2審とも会社の請求を退けた |
この考え方のもとになったのが、最高裁判所の判決です。会社の車で事故を起こした社員に、会社が損害約40万円の賠償を求めた事件で、最高裁判所は請求できるのは損害の4分の1までとしました(最高裁判所 第一小法廷 昭和51年7月8日)。会社が保険に入っていなかったこと、臨時の運転だったこと、給料の額や勤務の成績などが考えられました。
出典:大阪高等裁判所 平成24年7月27日判決、最高裁判所 第一小法廷 昭和51年7月8日判決(厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例・損害賠償)。
裁判所の判断2:入社すぐの辞職と「念書」
入社してすぐに辞めた社員に、会社が「払う」という念書を書かせていた事件もあります。
| 争点 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| どんな事件か | 取引先に常駐させるために採った社員が、入社してまもなく病気を理由に休んで辞め、取引先との契約が解約された。会社は、得られるはずだった利益を失ったとして、社員から200万円を払うという念書をとり、払われなかったため訴えた(東京地方裁判所 平成4年9月30日) |
| 実際の損害 | 得られるはずの利益が大きくても、給料や経費を引けば、実際の損害はそれほど多くない |
| 会社の側の事情 | 紹介した人の話を信じただけで、採用のときに人物や力をほとんど調べていなかった |
| 辞める自由 | 期間の定めのない雇い方なら、一定の期間をおけばいつでも辞められる。月給の人に責任を問えるのは、その月の末までの分 |
| 結論 | 社員の側の態度も考えたうえで、念書の200万円の約3分の1の70万円に減らした |
出典:東京地方裁判所 平成4年9月30日判決(厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例・辞職)。
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国の決まり:辞める自由と、お金の決まり
退職と損害賠償については、法律にも働く人を守る決まりがあります。
| 決まり | 内容 |
|---|---|
| 辞める自由(民法第627条) | 期間の定めのない雇い方なら、いつでも辞めると伝えられ、伝えてから2週間で契約が終わる |
| 期間の定めがある雇い方(民法第628条) | やむを得ない事情があれば、すぐに契約を解除できる。その事情が一方の不注意で起きたときは、相手に損害賠償の責任を負う |
| 違約金の禁止(労働基準法第16条) | 会社は、辞めたら○円払う、のように違約金や賠償の額を前もって決める契約をしてはいけない |
| 給料の全額払い(労働基準法第24条) | 給料は全額を払うのが原則。法律の定めや労使の協定がなければ、損害の分を会社が勝手に差し引くことはできない |
| 言われがちなこと | 考え方 |
|---|---|
| 後任が決まるまで辞められない | 期間の定めのない雇い方なら、伝えてから2週間で辞められる |
| 辞めるなら違約金を払え | 違約金を前もって決める契約は、法律で禁じられている |
| 損害の分を最後の給料から引く | 原則として、会社が勝手に差し引くことはできない |
出典:民法第627条・第628条、労働基準法第16条・第24条(e-Gov法令検索)。
いま同じ状況なら:やってはいけないことと相談先
辞めると伝えて「損害を払え」と言われたら、その場で念書や誓約書に署名しないことがいちばん大切です。署名した書面は、あとで会社が請求する根拠として使われることがあります。
やっておくこと
- 退職を伝えた日と相手、言われた内容をメモする(メールやチャットは保存)
- 退職の意思は、日付のわかるメールや書面でも伝えておく
- 引き継ぎの資料を作り、渡した記録を残す
- 労働条件通知書と就業規則(退職の決まり)を確かめる
- 請求の書面が届いたら、すぐに払わず、写しを持って相談する
引き継ぎは、できる範囲でていねいに行いましょう。わざと仕事を放り出したと言われないことが、自分を守ることにもつながります。
| 窓口 | 相談できること |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署の中) | 退職や損害賠償の請求のトラブルを無料で相談。会社との話し合いの手助け(あっせん)も |
| 労働基準監督署 | 違約金の定め、給料からの天引き、最後の給料が払われないなど |
| 法テラス | 弁護士への相談の窓口の案内。裁判の書類が届いたときも |
この記事は判決や決まりの考え方を紹介するもので、個別のケースの判断はできません。
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求人を紹介してもらう次の転職で内定を勝ち取るために
同じ失敗をくり返さないためには、入る前に辞めるときの決まりと、仕事の体制を確かめることと、退職の経緯を前向きに伝える準備の両方が大切です。
入る前に確かめること
| 確かめること | 安心できる答え | 注意したい答え |
|---|---|---|
| 担当の仕事の体制 | お客さまを複数人で担当し、休んでも代われる | 「1人で全部任せる」とだけ言われる |
| 退職の決まり | 就業規則に、何日前に伝えるかがはっきり書いてある | 「辞めるなら半年前」「後任を自分で探す」と言われる |
| 入社のときの書類 | 誓約書の中身を、入社の前に見せてもらえる | 辞めたときの違約金や賠償が書いてある |
職務経歴書の書き方(ビフォー・アフター)
| 書き方 | |
|---|---|
| ビフォー | 退職のときに会社ともめ、損害賠償を求められた。 |
| アフター | 取引先の事務所に常駐し、1年半にわたり社内システムの問い合わせ対応を担当。月に約200件の問い合わせに答え、よくある質問をまとめた手順書を作って、引き継ぎにも使えるようにしました。 |
職務経歴書には、退職のもめごとではなく、自分がやったことと数字を書きます。引き継ぎの資料を作った経験は、ていねいに仕事を進める力として伝えられます。
面接での答え方(退職の理由)
会社ともめたことを話す必要はありません。次にどんな環境で働きたいかと、引き継ぎをきちんと終えたことを伝えると、前向きで責任感のある人として伝わります。
出す前・話す前のチェックリスト
- 内定先の就業規則で、退職の決まりを確かめた
- 入社のときの誓約書に、違約金や賠償の定めがないかを読んだ
- 職務経歴書に、前の仕事でやったことを数字で書いた
- 退職の理由を、前の会社を責めずに1分ほどで話せる
まとめ:「損害を払え」は、そのまま受け入れない
辞めた社員に会社が損害賠償を求めても、裁判所は働く人が負うのは信義則の上で相当な範囲だけだとして、請求を退けたり、大きく減らしたりしてきました。仕事のミスは会社の経営にふくまれるもので、会社がリスクを負うのが基本です。
この記事のポイント
- 仕事のミスで出た損害は、会社が負うのが基本とされた
- 働く人が負うのは、信義則の上で相当な範囲だけ
- 念書があっても、請求が大きく減らされた例がある
- 辞めたら違約金を払う、という約束は法律で禁じられている
- 辞めると言われても、その場で念書に署名しない
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辞めたら損害賠償を払わないといけませんか?
辞めたこと自体で、損害を払う必要があるとは限りません。期間の定めのない雇い方なら、伝えてから2週間で辞められます。裁判所は、働く人が会社の損害を負うのは限られた範囲だけだとしています。
仕事のミスで出た損害は、払わないといけませんか?
ミスは会社の経営にふくまれるもので、会社がリスクを負うのが基本とされています。わざとやった場合や、ひどい不注意があった場合などは、一部を負うことがあります。
「払います」という念書に署名してしまいました。
署名していても、念書の金額がそのまま認められるとは限りません。念書の金額を大きく減らした判決もあります。すぐに払わず、写しを持って公的な窓口に相談しましょう。
後任が見つかるまで辞めさせないと言われました。
期間の定めのない雇い方なら、辞めると伝えてから2週間で契約は終わります。退職の意思は、日付のわかるメールや書面でも伝えておきましょう。
損害の分を、最後の給料から引かれました。
給料は全額を払うのが原則で、法律の定めや労使の協定がなければ、会社が勝手に差し引くことはできません。労働基準監督署に相談できます。
契約社員でも、すぐに辞められますか?
期間の定めがある雇い方では、やむを得ない事情があればすぐに契約を解除できます。その事情が自分の不注意で起きた場合は、損害賠償の責任を負うことがあります。迷ったら相談しましょう。
どこに相談すればいいですか?
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退職でもめたことは、次の面接で話したほうがいいですか?
話す必要はありません。退職の理由を聞かれたら、次にどんな環境で働きたいかと、引き継ぎを終えたことを短く伝えましょう。
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